生きてるうちに「旅立った後の片付け」を頼んでおくことを「死後事務委任契約」と例えるなら・・・

遺産相続, 遺言書

死後事務とは、祭祀法要(お葬式、戒名・供養・納骨・法要など)や、行政機関(市区町村役場・法務局・税務署・年金事務所など)への届出、故人の持っていた物の整理等(自動車やバイク、形見の品、家や施設・病院等にある所有物、その他遺品全般)、未払金の精算(公租公課【公的保険料や税金等】、介護医療施設等利用料、水道・電気・ガス・電話など、故人名で契約等のあったもの全般)、住まいの処分(賃貸借契約のこと、土地や家屋のこと全般)など、さまざまな手続きが含まれます。

つまり、簡単に言えば「故人の後片付けのことでしょ」?

その通りです。ここでは「故人の後片付け」を死後事務と表現してみましょう。

例えば、お葬式や納骨などは、葬儀業者や菩提寺の手引で速やかに進んでいきます。

しかし、市役所への届出や、お家や家財関係のこと、未払金や契約ごとの対応は、故人の代わりに誰かがやらないといけません。

「故人の代わりに誰かがやること」を「死後事務」と言います

一般的に、近しいお子さんやお身内がいらっしゃれば、「死後事務」という形式にとらわれず、「親の家・部屋の後片付け」「世話になった人の亡くなった後の後片付けの手伝いなど」、明確な単語はないかも知れませんが、巷では自然に行われているものと思います(逆に言えば、そういう単語の呼び名として「死後事務」と言ってるのかも知れません)。

イメージ的には、親族がお休みの日などに故人宅に集まり、家の中のタンスの引き出しや食器戸棚等から不要なものを処分する袋に入れていく、「これは捨てる?」「これまだ使えるんじゃない?」「年金止めないとまずいんじゃない?」「健康保険証って返すんだっけ?」「電気とかガスの料金、どっから引かれてるの?」・・・など想像してみて下さい。

預貯金や不動産を相続するのとは明らかに違い、あくまで「故人の代わりに誰かが」やってますよね。

ですので、相続と死後事務は明確に異なるものと表現してよいかと思います。

あなたの死後事務。やってくれる人はいらっしゃいますか?

信頼ある親族や知人、実の親子などがいる。私が旅立ったら、後片付けは黙っていてもやってくれるだろう。そういうお家ではわざわざ「死後事務」なんて表現は使わないかと思います。

一方、子がいない、後片付けを頼めそうな親族や知人もいない。自分が死んだら、家財とか家そのものとか、どうなるんだろう・・・ という場合は、もう少し踏み込んで考えたほうが良いかも知れません。

誰も片付けてくれず、自分が使っていた家や部屋、お風呂場やトイレ・・・掃除も片付けもされないまま放置される。趣味の品、思い出の品もいつまでもそのまま。換気がされない室内は、なんとも言えない空気と独特の雰囲気となり・・・この辺でヤメておきましょう・・・苦笑 ※でも、実際に誰も何もやってくれないと、人が住まなくなった場所はそうなっていきます。私事ながらお手伝いの過程で、そういうお宅を見たのは結構な軒数にのぼります。

生きてるうちに「旅立った後の片付け」を頼んでおく

ちょっと小難しい話ですが、

誰かに特定の何かを頼むことを「委任(いにん)」と言います。
当事者の合意で成立する約束を「契約(けいやく)」と言います。

委任や契約は、意思表示が可能で存命している者同士の、一方を委任者(頼む人)・もう一方を受任者(引受ける人)とし、この人達が当事者となります。

つまり、意思表示が可能(認知症などは原則、意思表示できないと位置づけられます)で、契約時に存命している者同士の、委任者と受任者の合意で成立した約束を「委任契約(いにんけいやく)」と言います。

 

先ほどの「故人の後片付けを誰かが代わりにやること」を、「死後事務(しごじむ)」と言いました。

これらをまとめると、「故人の後片付けを誰かが代わりにやること」を、委任者と受任者で「委任契約(いにんけいやく)」を締結した、これを「死後事務委任契約」と言います。

 

つまり、委任者は「あなた」。受任者は「信頼できる誰か」。「あなた」が生きてるうちに、「信頼できる誰か」と死後事務委任契約を締結する。この流れが「生きてるうちに「旅立った後の片付け」を頼んでおく」という事になります。

繰り返しになりますが、
信頼ある親族や知人、実の親子などがいる。私が旅立ったら、後片付けは黙っていてもやってくれるだろう。そういうお家ではわざわざ「死後事務」なんて表現は使わないかと思います。ただし、子がいない、後片付けを頼めそうな親族や知人もいない。自分が死んだら、家財とか家そのものとか、どうなるんだろう・・・ という場合は、死後事務委任契約のことについて、もう少し踏み込んで考えたほうが良いかも知れません。

つまり死後事務委任契約ってどうすればいいのか? いえいえ、みなさん知ってるはずですよ。

用語は聞き慣れないでしょうけども、簡単に考えて頂いて大丈夫だと思います。

あなたが亡くなった後、任せたいこと・やっておいてもらわないと困ることを書き出してみて下さい。

例えば・・・

・祭祀法要(お葬式、戒名・供養・納骨・法要など)

・行政機関(市区町村役場・法務局・税務署・年金事務所など)への届出関係

・所有物の整理等(自動車やバイク、形見の品、家や施設・病院等にある所有物、その他遺品全般)

・未払金の収受・精算(公租公課【公的保険料や税金等】、介護医療施設等利用料、生命保険・入院保険等、水道・電気・ガス・電話など、故人名で契約等のあったもの全般)

・住まいの処分(賃貸借契約のこと、その他家屋のこと全般)

形式張って書くと上記のようになりますが、ご家庭目線で言えば「葬式どこに頼むの?」「お寺さんに電話した?」「デイサービスに今月分払ったの?」「電気まだ解約しないほう良いよね」「(家財等なら)欲しいものある?」・・・・こんな感じでしょう。

これを、できれば「紙に書いて(書類にして)」、あなたと引き受けてくれる人で、その紙に名前とハンコ押しておくといいと思います。

書類にしておくと、何を頼んでいたか・頼まれてたか、それするために、このお金で和尚さんに御経代払えって言ってたとか・・・ そういうのが形になってはっきりしますからね。

経験上ですが、90歳位で無くなり、そのお子さんもまもなく70歳。遠方に住んでて・・・葬式・お寺のことはできるけど・・・実際そういう方も少なくありませんので、結局お手伝いする流れになることも結構あったります。 その際は「丸投げ」はちょっと困りますので、せめて一度家の中見て頂き、持ち帰りたいものなど含め、思い出の品や貴重品はちゃんと確認・お引き取りしてくださいねとご協力は頂戴するようにしていますが・・・ 中々大変な作業ですよ。

後片付けを任せる書類(死後事務委任契約書)の例

文字数を減らして簡単に書くと下記のような書類になります

前略

夫も死別して子もいないので、お葬式、お墓のこと、形見整理や相続の手続きなどを相続人の誰かに任せなければいけない。皆で協力的に一連の事を完結するよう、重ね重ね心から頼む。

1 私は△△へ本件事務の費用として、金300万円を預託する。

2 葬儀
死亡届者として戸籍に記載されるのは△△とし、葬儀は〇〇会館へ、予算税込60万円で依頼することとし、喪主は△△が務める。この際、新聞等を用いた訃報広告の掲載は不要とする。なお、香典は喪主の△△が収受するものとするが、△△以外の者が喪主となった場合、喪主を務めたものがすべての香典ならびに行政機関の葬祭費を収受する。喪主の裁量において葬儀等に貢献・寄与したものへ、香典の一部を再分配することを妨げない。

3 供養、納骨等
△△(または喪主)は、菩提寺である◇◇(所在地:ーーー市ーーー町1−168 電話︰ーーーーーーー)において、供養・法要・納骨・戒名などの連絡調整をするものとする。御経代・その他供養・法要・納骨・戒名の合計額を150万円までとする。

4 形見分け(家財・遺品整理等)
△△は、親族等に形見分けの品の閲覧をさせる。形見分けが終了した後、家財並びに遺品の整理(売却・搬出・処分等)を行う。遺品整理の費用は税込50万円までとする。なお買取で得た現金は、遺品整理の費用へ充当するものとする。遺品整理に関しては、物品の盗難や紛失、家屋ならびに従物等の損害、毀損、汚損等に関する損害等について△△は一切の責任を負わない。

5 公共料金等、行政関連の届出、ならびに公租公課の精算授受
△△は、行政官庁への届出等(年金事務所、市役所、県庁等に届出るもので、葬祭費、相続に関する事務以外のもの)、水道光熱費、電話、火災保険等の精算授受、名義変更や解約等、その他類似するものの諸対応ならびに付帯事務全般を行う。この場合報酬として10万円を△△に与える。

(以下省略)

死後事務の補足等

1の預託金ですが、生前に△△名義の口座に振込が必要です(本人が亡くなると他人が現金を下ろせなくなるため)。△△は本人が死亡するまで預託金を使うことは出来ません(資産運用も禁じされています)。贈与税がかからないように、預託金の根拠として死後事務委任契約書を交わしておく必要があります(交わしておかないと、ただの300万円贈与という外観になるため)。

2と3については、生前にハッキリとした金額を明言しておくことで、遺された方々が葬儀業者や和尚さんと交渉等をしやすくなります。

4の遺品整理において外部の業者へ依頼する場合は、日時を指定する前に、お身内で家屋の中をしっかり確認ください。現金や高価な貴金属等が引き出しなどに入ったままということもあり得ます。こういった貴重品を完全に引き取って、もう外部の人を入れても問題ないという場面にしてから、依頼する業者へ日時を指定して作業を依頼するようにされてください。

5にあっては、口座振替等になっているものが多いかと思います。引き落とし対象の銀行口座については、一旦相続手続きを「先延ばし」とし、各公租公課、契約の名義変更・解約等が済んでから金融機関の手続きに着手されることをお勧めします。

まとめ

本当の死後事務委任契約書は、上記の5倍位の文字数や項目となりますが、まずは抜粋した前述の1〜5を知っておけば十分かと思います。

「故人の代わりに誰かがやること」を「死後事務」と位置づけてお話してみました。

ここまで読んでいただくと、相続や遺言と死後事務委任契約は異なるものであること、少し分かって頂けたのではないかと存じます。

この死後事務委任契約は、特にお子さんがおらず、こういった事を任せられる人も見当たらない単身高齢者の方などには切実なお話になります。

これを機に、死後事務の中身を軽減できるような生前の準備、こういったことを確実に頼めそうな人とのコミュニケーションなどを深めていくこと大事になってくるかも知れません。

 

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