遺言書を作成する最大のメリットは、「自分の意思で財産の分け方を指定できること」「遺された家族の相続トラブル(争族)を未然に防げること」ですが、法律で定められた相続分よりも遺言書の内容が優先されるため、以下のような具体的な利点があります。
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財産の分け方を自由に決められる
同居して生計を一にして面倒を見てくれて療養看護にも努めてくれる子(実質的にあなたの財産維持に貢献してくれているとも言えます)、別の所に住み全く別の生計となっていて何かあったときに会う程度の子などで、相続分に差をつけたい場合。
法定相続人以外の人物(お世話になった友人知人や孫など)や、様々な背景事情から、特定の相続人に多く財産を譲りたいといった希望を実現できます。
他にも・・・例えば、長男の妻などは、実の息子よりも日常生活の支援をする事も少なくないため、遺言書の中で「遺贈(いぞう)」する人の名前を「長男の妻」と記載して、こういった方々へ現金・預貯金の一部を受け取ってもらう事も可能です。

法律で定められた相続人(配偶者や子供など)以外の人に財産を残すことは、原則としてできません。たとえば、お世話になった義理の娘(息子の妻)や、事実婚のパートナー、特定の慈善団体などに財産を譲りたい(遺贈したい)と考えても、遺言書がなければ実現しません。
相続手続きの負担軽減
遺言書があれば、原則として相続人全員による遺産分割協議が不要になります。銀行口座の解約や不動産の名義変更に必要な書類も少なくなり、手続きがスムーズに進みます。
逆に、遺言書がない場合、相続人全員による合意を取り付けての遺産分割協議がまとまるまでは、預貯金の払い戻しや不動産の名義変更などの相続手続きを進めることができません。相続人全員の戸籍謄本を集めたり、全員の署名と実印を押した「遺産分割協議書」を作成したりする必要があり、数ヶ月〜年単位の時間がかかることも少なくありません。
遺言書の作成は、こういった相続手続きの時間や手間を大幅に軽減できる、次世代への配慮とも言えるでしょう。
相続人同士の対立を防止
誰に何を相続させるかが明確になるため、遺産の分け方をめぐる家族間の無用な争いを防ぐことができます。
一方、遺言書がないと、誰がどの財産をどれだけ引き継ぐかを相続人全員で話し合って決める「遺産分割協議」を行わなければなりません。特に不動産や預貯金など簡単に分けられない財産がある場合、意見が対立しやすく、深刻な骨肉の争いに発展するケースがあります。
遺言書の作成は、これらの「争族」の抑止に大きな効果を発揮するものと言えるでしょう。
遺言書の種類と特徴
遺言書には主に3種類あり、一般的に利用されるのは、自筆証書遺言と公正証書遺言の2種類です。残りの1種類はあまり利用されていない秘密証書遺言です。
遺言書は主に3種類あります。手軽で費用がかからない「自筆証書遺言」、最も確実で安全な「公正証書遺言」、内容は秘密にしつつ存在を証明する「秘密証書遺言」です。それぞれの特徴や作成方法を後述の項目でご覧ください。
自筆証書遺言(1種類目)
自筆証書遺言は費用がかからず、用紙とペンがあればいつでも自分のタイミングで手軽に作成できます。
ただ、安価で手間もかからない分、多くの注意点があります。
※2026年(令和8年)5月現在のルール
注意点1 全文を自書する
遺言の本文、日付、氏名を全て自分で書く必要があります。パソコンやワープロの使用、代筆は原則無効です(※財産目録のみパソコン作成や通帳のコピーが認められていますが、目録の全ページに署名・押印が必要です)。
注意点2 正確な日付を書く
「○年○月吉日」といった曖昧な書き方は無効になるリスクがあります。「○年○月○日」と特定できる日付を記載してください。
注意点3 署名と押印
氏名を自書し、必ず印鑑を押します。実印である必要はありませんが、認印よりも朱肉を使う印鑑が推奨されます。
注意点4 訂正・加筆のルール
間違えた場合、訂正箇所に二重線を引き、そこに押印し、欄外や末尾に「何行目何文字を訂正」と付記して署名しなければならず、非常に厳格です。
注意点5 財産は具体的に書く
「すべての財産を妻に」といった包括的な書き方でも可能ですが、不動産は登記事項証明書通りに、預貯金は金融機関名・支店名・口座番号まで具体的に記載すると手続きがスムーズです。
注意点6 遺留分に対する配慮
※法務省HPより引用した図

配偶者や子どもなどの法定相続人には、最低限受け取れる権利(遺留分)があります。これを無視した内容にすると、のちに相続人同士でトラブルに発展する可能性があります。
注意点7 改ざん・紛失リスクの回避
自宅での保管は、紛失や誰かに書き換えられるリスクがあります。法務局による自筆証書遺言書保管制度を利用すると、改ざんを防ぎ、相続開始時の家庭裁判所での「検認」も不要になるため安全です。
注意点8 検認の手続き(自宅保管の場合)
検認の手続き(自宅保管の場合): 自宅で保管していた遺言書は、発見後に開封せず、家庭裁判所で「検認」という手続きを行う必要があります。これを怠ると過料が科される場合があるため注意しましょう。
※法務局での保管制度を利用すると検認は不要になります。
自筆で遺言を書くのが不安な方々へ
遺言書は一生に一度の大変重要な内容を書き記すものです。
前述した注意点1〜8含めた形式・書き方・保管の方法など不安点が散見される
相続人同士でも、遺産の分け方に差をつけたい・相続人以外の者にも財産を譲りたい等といった複雑な内容が含まれている
こういった事で、中々うまく遺言書を自筆できない。インターネットや書籍で調べても限界を感じてきている・・・そんな時は無理せず・悩まず、専門家へご相談されることをお勧めします。その際はご自身で出来る所までお調べになった情報や下書きなども役に立ちますので、相談時にそれらも持参されると良いでしょう。
公正証書遺言(2種類目)
公正証書遺言の最大の特長は、法律の専門家である公証人が作成し、公証役場で厳重に保管されるため「遺言書の紛失・改ざんがなく、内容が無効になりにくい」という確実性にあります。
具体的なメリットと主な特長は以下の通りです。
メリット1 確実性と安全性
公証人が法律に基づいて作成するため、自筆証書遺言のように「書き方の間違いで無効になる」心配がほとんどありません。
遺言書の原本は公証役場に保管されるため、誰かに書き換えられたり、火災や紛失で失われたりする心配がありません。
形式の不備による無効化を防げるうえ、改ざんや紛失のリスクがないのが公正証書遺言の特長の一つです。
メリット2 相続人の負担軽減
自筆証書遺言(法務局保管制度を利用する場合を除く)で必要な、家庭裁判所での「検認」手続きが不要です。相続発生後、すぐに遺言の内容を実現できます。
万が一、手元にある正本や謄本を紛失した場合でも、公証役場で再交付してもらえます。
このように、家庭裁判所での検認(けんにん)が不要:であることに加え、紛失した場合であっても公証役場で安心のバックアップが成されていることも、大きな利点と言えるでしょう。
メリット3 利便性とサポート
公証人が専用の書式で入力作成してくれることから、遺言者が自分で文字を書く必要がないため、病気や高齢で字を書くのが難しい方でも作成できますし、体調が優れず公証役場に行けない場合でも、公証人に自宅や病院まで出張してもらうことが可能です。
公証人が携わることで、自書ができなくても公正証書の作成が可能となり、公証役場までの移動が難しい方などにあっては、病室や自宅への出張も対応できる点は大きなメリットと言えるでしょう。
注意点1 手間や費用がかかる
公証役証書で遺言書を作成する場合には、多くの準備書類を公証役場へ提出する必要があります。
加えて、相続させたい人の数、財産の種類数、遺産の総額を目安とした課金など、自筆と異なり、手間や費用の負担が生じる点には、あらかじめ留意が必要となってきます。
遺言者本人に関する書類
戸籍謄本(出生から現在までのもの)
印鑑登録証明書
実印:印鑑証明書に対応するもの(市区町村役場に届け出ている印鑑のことです)
本人確認書類:住民票またはマイナンバーカード、運転免許証、パスポートなどの顔写真付きの身分証明書
相続人・受遺者に関する書類
戸籍謄本:遺言者と相続人の続柄がわかるもの(相続人全員分が必要です)
受遺者の住民票:相続人以外の人に財産を譲る場合(氏名・住所・生年月日がわかるもの)
財産に関する資料
不動産の場合:登記簿謄本(登記事項証明書)および固定資産税評価証明書(または固定資産税納税通知書)
預貯金の場合:通帳のコピー(金融機関名、支店名、口座番号、名義がわかる部分)
株式・その他:証券会社の残高報告書や投資信託の資料など
※生命保険証券は不要です。
遺言執行者に関する書類
住民票または戸籍の附票
遺言執行者(いごんしっこうしゃ)とは
遺言書の内容を実現するために、相続財産の管理や各種手続きを単独で行う権限と義務を持つ人のことです。遺言者が遺言書の中で指定しておきます。相続人の誰かや、行政書士等の専門家など、遺言者の意思によって決定して記載されます。遺言作成時には「候補者として記載されるだけ」であり、実際の相続発生時に執行者として記載されている本人が就任するか否かを決定します。したがって執行者に記載されていることを知らずに遺言書が作成されることも珍しく有りません(法令上も許容されています)。
必要書類についてのこと
このように、数多くの公簿(住民票や戸除籍・印鑑登録証明書、不動産登記事項証明書など)や、財産関係資料(通帳、金融資産証券、不動産関連書類など)を、一人で揃えるのは非常に労力を要します。加えて「交付から◯か月以内」や「本籍地入り」「謄本・抄本」など公簿取得時の細部への注意点なども少なく有りません。
これらと併行して、どの財産を誰に相続させるかといった思案も巡らせなければならず、公証役場に行く前にも、ある程度遺言書の原型のような所まで下書きをしておかないと、何度も何度も公証役場に電話や訪問で相談をする事態にも陥ってしまう可能性もあります。
場合によっては、こういった準備作業段階から、行政書士等の専門家に相談したりサポートを求めたりする事も一つの選択肢になるでしょう。
注意点2 証人2名以上が必要
遺言公正証書を作成する場合、その場に立ち会う証人2名が必要です。証人の住所、氏名、生年月日の分かる資料(例えば、印鑑登録証明書、住民票や運転免許証のコピーなど)を準備してもらい、作成当日に来てもらうようにしましょう。
証人になれない人(民法974条など)
この証人については、誰でもなれるものではなく、推定相続人および受遺者、それぞれの配偶者、直系血族等の利害関係人や未成年者等は証人になれません。これは民法という法律でも定められているルールとなります。
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(証人及び立会人の欠格事由)
第九百七十四条 次に掲げる者は、遺言の証人又は立会人となることができない。
一 未成年者
二 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
三 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
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こういった事情から、遺産の内容や分け方などを知られても大丈夫という証人を自前で2名以上揃えるのが難しい方々が大半です。証人の手配や公証役場への提出書類の準備等も含め、専門家に助言やサポートを求めるのも一考かと存じます。
秘密証書遺言(3種類目)
秘密証書遺言は、遺言の内容を誰にも知られずに遺言書の存在だけを公証人に証明してもらう方式です。パソコンでの作成が可能で、署名と押印をして封をした上で、公証役場で公証人と2人以上の証人に提出する流れで作成します。
作成から手続き完了までの具体的な流れは以下の通りです。
遺言書の作成と封印
遺言内容を決定し、遺言書を作成します。自筆証書遺言とは異なり、パソコンでの作成や代筆も認められています。
遺言書の本文には、遺言者自身が署名し、押印します。
作成した遺言書を封筒に入れ、遺言書で使った印鑑(同じ印章)で封をします(契印)。
公証役場での手続き
秘密証書遺言は公証役場で完成します。流れは以下のとおりです。
事前準備
証人2名と公証役場へ行く日時を予約し、必要な書類(遺言者の印鑑証明書など)を用意します。
提出と申述
遺言者、公証人、証人2名が同席し、遺言書を入れた封書を提出します。その際、遺言者本人のものであること、またその筆者(作成者)の氏名・住所を公証人に伝えます。
封紙への記載
公証人が封筒(封紙)に提出日と遺言者の申述内容を記載します。
署名・押印
最後に、遺言者、公証人、証人2名がその封筒に署名・押印をして完了です。
保管と執行
公正証書遺言とは異なり、作成後の遺言書は公証役場ではなく遺言者自身(または信頼できる人)で厳重に保管します。
さらに、相続発生時には家庭裁判所での検認(自筆証書遺言と同様)手続きが必要となります。
注意点
遺言書の作成を検討する
費用をかけずに手軽に作りたい場合は自筆証書遺言、相続時のトラブルを防ぎ、確実に財産を残したい場合は公正証書遺言、作成する際は、ご自身の財産の状況や相続人との関係性を考慮し、ご自身の状況に合わせて、どの方法が最適か検討してみてください。
























