私の事務所が所在する同じ市内の方から、
1件の相談が寄せられました。
「生前父が書いた遺言書があるので持ってきました。
これで相続手続きって出来るんでしょうか?
なにしろ、父がボールペンで書いてるだけなので、
こんなのが手続きで使えるものなのか・・・」
※本当は封筒を開けて、中を見てはいけないのですが(過料の対象)・・・
既に開いていて、中身が見れる状態になっており、
それを机の上で開いて見せられてしまいました・・・苦笑
形式は満たしているが・・・「託す」と書いてある遺言
この手続の概要は、
認知症の奥様(相談者の母)、相談者の兄弟二人、そして相談者で、
相続人が4名(認知症の妻、子3)。
財産は、土地(宅地)が一筆、金融機関に一定の資産があり、
相続税の対象にならない総額。
そして、遺言書の内容は、
相談者である子にすべてを「託す」と言う内容。
・・・「託す」は、
そのときからちょっと気になっていました。
遺言書の内容は、3兄弟が生前から聞いていた内容でもあり、
そこに紛争の種は全くありませんでした。
司法書士と打ち合わせをする
遺言書の検認、不動産の登記が含まれていたので、
まずは、いつもお願いしている司法書士さんに相談し、
当該遺言書の内容も共有しました。
率直な回答は
「多分遺言書で大丈夫だけど、100%ではない」。
―――何のやり取りかと言うと、
遺言書で登記ができれば、遺産分割協議は不要なので一安心。
逆に遺言書で登記が通らない場合、
「認知症の妻」に成年後見人を選任する必要が生じ、
さらに、代理人が参入しての遺産分割協議となるため、
遺言書通りの遺産分配ができなくなるという懸念でした。
つまり、所要期間も、労力も、費用も、
まったく異なってくることになるのです。
まずは出来るところから粛々と進める
色んな不安も含有しつつ、まずは、戸籍・除籍等の公簿を取得。
相続人を確定させ、法定相続情報一覧図の交付を請求。
遺産が他にないか、出来うる範囲で調査をし、
高額な遺産等や、債権債務が存在しないことをチェック。
暫定的な遺産の把握と、法定相続人の確定を行いました。
みんながドキドキだった登記の申請
遺言書、法定相続情報一覧図、念の為取得した公簿すべて、
その他、相続人の印鑑登録証明や身分証など、
不動産の相続登記に必要な書類を司法書士に託し、
私も、相続人も、ドキドキの登記申請に着手。
書類だけは不備がないはず・・・
あとは、遺言書での登記が通るかどうか・・・
結果は・・・
「今回は何とか通りました!」
と、司法書士さんからショートメールで返事が来ました。
・・・ふぅ・・・一安心。
これが「アウト」だったら、
成年後見のための医師の診断や、書類の作成、
家庭裁判所への後見人の選任申立・・・
遺産分割協議にその後の分割方法など・・・
「いばらの道」が待っていたのです。
大袈裟でなく、遺言と遺産分割では、
「天と地」ほど違ってしまう事案でした。
追伸
遺言書を遺して頂くと、
我々専門家は、比較的お手伝いがしやすい環境となり、助かります。
そして、厚かましく進言させて頂けるのであれば・・・
せっかく遺して頂く遺言書には「相続させる」とハッキリ書いてくださいね。
「託す、渡す、あげる、引継ぐ、承継させる、遺贈する、贈与する・・・」
細かくは申し上げませんが、
アンダーラインで示した用語は、
極力用いないようお願い致します。。
※あと、遺言書発見した方は、封筒を勝手に開けて中身を読まないようにしてくださいね。
過料(かりょう【業界では”あやまちりょう”とも言う】)と言って、公的な処分で5万円以下の支払い義務が命じられることがあります。